INTERVIEW 03
子育て編
三つ子の出産
子育てはご近所の皆さんに支えられた
日々、地域の方に支えられ、小学5年生になる三つ子のお子さんたちの子育てに奮闘しながら、ミニトマトの栽培に汗を流している稲森さんご夫婦。章志さんは元々は関西で会社員をしていましたが、豊かな自然、地域の人たちと人付き合いができる場所で農業をやりたいという思いで、2007年に小値賀島に移住。夫婦で農業研修制度を利用し、試行錯誤をしながら農業の基礎知識やノウハウを学び、2年間の研修の後、新規就農者として独立。現在はミニトマト栽培に特化した農業を行っているお二人に、農業を始めるまでの経緯や農業に対する想い、島での子育て、島の魅力について語っていただきました。
病院で子供たちを抱っこして、もう1人の方が抱っこして、もう1人が荷物持ちということで、合計4人で、子どもを迎えに行きました。船に乗って小値賀港に帰ってきたら、島の方々が待っててくれてたんですよ、ターミナルで。みんなで家に帰って、電気も点けててもらって、家でみんなで「あ~よかったね。よかったね~」っていう感じだったので、すごく家族が出迎えてくれているようなそんな感じを受けました。
それからは1ヵ月間程は、お昼のミルクの時間になったら、率先して皆さん来ていただけるんですよ。もうローテーションを組んで下さってたんですね。自分達からはなかなか「お願いします」っていうことが苦手なので、そういうのを察してくれて、いろいろやってくださるのがすごく助かってありがたかったです。
ーさっきから(章志さんが)無言ですね。笑
子育てのことはもう(奥さんに)任せてるので。「三つ子」言うたらもう小値賀中みんな知ってるんで、もう安心して任せてますね。
ー移住して15年経って思うことはありますか?
気持ち的には「いつまで自分達は移住者なのかな」と思うと、最後までそうなんですけど、でも子ども達はここで小値賀生まれ小値賀育ちなので、いいなぁと思うんですよね。
自分達はマンモス校で、先生に名前を覚えてもらってるかどうかもわからないような、大人数の中の1人だったんです。それがここは一人ひとりなんですよね。だからこそ個性が発揮できるんだなって思うので。
ここは物は不便だけど人間的に温かいところがいっぱいあって、佐世保から帰ってきた船で「あぁやっと帰れる~」とかいう気持ちになるので、「もう今は都会には住めないな」というのがすごくあるので、そういうのがあって、このハウスがダメになったときも(※2020年の大型台風により、ハウスが倒壊)、もう全然(故郷に)帰ることは一切頭になかったですね。
ー島に移住後、三つ子を出産した時のことを教えてもらえますか?
三つ子ということがわかった時点で、計3ヵ月入院をしました。3人で5kg位で本当に未熟児だったので、そこから1ヵ月近く大村の医療センターのNICUでずっと保育器に入ってて、2kgになるぐらいまで入院をしてました。私は小値賀に帰って、ほぼ毎週通っていました。
ー退院して島に帰ってくるときはどんな様子でしたか?(私達夫婦)2人しかいないので(子どもを)3人を連れて帰ることができなかったから、近所の方々が「誰か一緒に迎えに行こう!」って。あと「荷物持ちもいるよね!」とか「じゃあ、お願いします。」といったら「じゃあ、私行くから」って、結局2人小値賀の方から一緒に(病院に)来ていただきました。
ー島での子育てで不安なことは何ですか?
一番下の子が滑り台から落っこちて腕を骨折したんですけど、その時は漁船をチャーターしていただいて、佐世保の病院に行って、もう即緊急手術をして、今はちゃんと不自由なくすることができたんですけど。
たまたま船が出ましたけど、出ない時とかもあるので、もうなるだけ怪我はしないように、病気もならないようにと思うのが毎日ですね。あとは小値賀には小学校・中学校・高校とあるんですけど、小学校・中学校は町立で、人数が各クラス10人から20人位なんですけど、今度は高校が県立ということで、できたら高校までは小値賀で子ども達を過ごさせてもらえるように存続をしてもらいたいなと思っています。
【トマト農家】
稲森章志さん・美智子さん
自然豊かな暮らしと温かいご近所付き合いを求めて、2007年に小値賀島に移住し、新規就農をしたご夫婦はIターン者。現在はトマト農家としてビニールハウスでミニトマトの栽培している。
ー移住を考えている人へメッセージをお願いします。
都会で人間関係に疲れたなぁって思って、田舎に行きたいって思われても、でも実際は逆なんですよね。田舎にいるからこそ、人間と人間との間の距離っていうのがすごく近くなるので、自分をさらけ出して、ちゃんとそこの生活環境とかそういうものを取り入れていく。本当にそこに行きたいのかっていうのをしっかりと考えてから来たほうがいいと思います。
生きてたら、選択することがあるじゃないですか。こっちの道に行くかあっちの道に行くか、やるかやらないかとか、人それぞれ違うと思うんですけど、自分はおもしろい方へ、自分が楽しめる方へというふうに選んで来たので、そしたら失敗しても後悔はしないという感じなので。それで小値賀に、絶対こっちに来たら自分は楽しめるだろうなと思って来たので。そういう選択をしていけば、人生楽しいと思います。
INTERVIEW 03
農業編
「美味しい」って買ってくれるから
また頑張れる
ー研修終了後、就農した時のことを教えていただけますか?
章志さん:元々ここは荒地で、草もボーボーだったんですけど、整地してもらいました。ハウスを建ててからも中に結構石がゴロゴロあったので、全部拾って外に出したりしたのが大変でしたね。トラクターとかも研修を受けた担い手公社から安く借りれましたし、土地とかも、耕作放棄地が結構あったので、そこも担い手公社が間に入って貸してくれますし、結構就農してからもちゃんと面倒を見てくれたので、だいぶやりやすかったと思います。
美智子さん:設備とか機械とか軽トラックとか最初の出費はかかります。そういうのを前もって考えておかないといけないなと思いました。
章志さん:卒業してからも、指導してくれてた先生が近所にいるので、わからないことがあったらすぐ聞けます。
美智子さん:もう師匠ですね。その方が絶えず気にかけてくださっているのが、すごく有難いので、そういう方がいるからこそ、自分達が農家をやっていける。自分達だけではできない。それは地域の人と仲良くするっていうこと(が必要)じゃないかなと思います。
ーミニトマトを選んだ理由は何ですか?
章志さん:収入が一番良かったのと、研修中にメインで教えてもらってたので。
美智子さん:ここに来た時に一番最初に食べさせてもらった大玉のトマトがすごく美味しくて、絶対トマトはやろうということは、もうずっと思ってました。研修をしている時から。
ー就農して大変だったことはどんなことですか?
章志さん:2年前、台風が来て、ハウスのビニールが全部破れてしまったことですね。植えてから1ヵ月位経ってからの台風だったので、中のトマトの苗も、全部やられてしまって。それですぐには直せなかったので、一旦別のアルバイトとかを1年間はして、トマト作りができない時があったので、その時はやっぱり苦しかったですね。
ー台風後、立て直した時はどんな気持ちでしたか?
美智子さん:まず、諦めることはなかったです。周りの方もハウスがダメになったから、帰るんじゃないかっていう声がすごいあったんですけど、私達はそういうのは一切無くて、1年間他の仕事をして、それでお金を貯めて、もう一回頑張る。それと同時にハウスもちゃんと直していく。落ち込んでいる暇はないと思いました。
ー農業の魅力は何だと思いますか?
章志さん:工場に前働いていたんですけど、生産ラインの途中しかやってないわけなので、「やりがい」みたいなものがあまり感じられなかったんです。でも農業は一から十まで自分の力でやって面白そうだなって思ったんですよ。で、実際やってみて本当にもう天職のように思ってます。楽しくて、毎日時間が過ぎるのが早くて早くて。工場の時やったら、なかなか時間経たないなと思ってたんですけど。
美智子さん:自分のペースでできてるからだと思うので。誰かに指図されるわけでもなく。
章志さん:言われてやってるわけじゃないからね。
美智子さん:あとは、自分達が例えばサボってしまったら、トマトにも影響が出るので。
章志さん:その分、作業が溜まっていくから
美智子さん:やることはちゃんとやるっていうことを自分達で決めないと、作物は待ってくれないので。だからそういうのがすごい出る職業だなと思います。
章志さん:「おいしい、おいしい」言って買ってくれたらね。余計に頑張れますしね。
ー小値賀へ移住して来たきっかけは何ですか?
章志さん:実家が昔から兼業農家で、田は作ってたので、いずれは農業をしてみたいなと思ってたんですけど、その時にテレビで野崎島を見たんやね。
それで(野崎島がある)小値賀町のことを調べたら、農業研修をやっているっていう情報がありまして、それで一回来島して、その時泊まった民泊が、(農業)研修の先輩の家だったので、その時に、いろいろ研修のこととかを聞いたりして、島のこともすごく気に入って、もう、すぐここに来ようと決めて、(移住して)来ました。
ー農業研修中はどんなことを学びましたか?
章志さん:研修は2年間だったんですけども、メインはトマト。その他にも、ブロッコリー、かぼちゃ、さつま芋もあったし、自分の好きな野菜も少しだけ作ったり、教えてもらったりしました。
トラクターとかの免許も取らせてもらいましたし、育苗とかって、苗とかも教えてもらいましたし、その中で自分がやりたい作物を見つけて就農する感じでした。
クワの持ち方から教えてもらったので、本当に一からですね。土づくりはどうするんだとか、そういうところから教えてもらいました。
ーその時、美智子さんはどんな気持ちでしたか?美智子さん:主人が農業をしたいというのを、ずっと本当に言ってたので、「これは本気だな」っていう気持ちがわかったので、私も、島に暮らして就農ができるっていうことを知ったので、「行きたい」っていう気持ちが湧いてきて実行しました。
島での子育てと農業を楽しむために、日々努力をされている稲森さんご夫婦は「島での恵まれた環境があったから」こそ、ここまでやってこれたとお話されていました。農業研修時代にお世話になった指導員の方が近くにいるので、分からないことや困ったことがあったらすぐに相談できる環境があるという安心感。そして子育てに関しては、島の方々が子どもたちを温かく見守ってくれるおかげで、子どもを育てられるという安心感。島での出会いはお二人にとって、本当に大きな財産になっているようです。農業のノウハウだけでなく、島暮らし全般についてあれこれと教えていただける環境に感謝をしている真面目なお二人の人柄を見て、自然と島の人たちが手を差し伸べているんだと思いました。お二人のような熱い思いを持った若手農業者が増えることで、小値賀の農業が少しずつ盛り上がっていくことを期待しています。